唐突ではあるが、設備投資の問題は、将来の雇用を検討するにあたって、実はきわめて重要である。最も重要なテーマは、人が最大限に能力を発揮して付加価値を生み出すシステム(それは企業システムであってもよいし、産業システム、社会システムであっても良いのだが)とは何かを検討することである。豊かな付加価値は、個人の生産性の向上によって実現される。ここまではよい。問題はここから先である。すなわち、個人の生産性の向上とは、個人の専門能力の向上によってもたらされるものなのかどうかという点である。
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結論は、個人の専門性の向上が生産性を高める度合いは、実は意外に限られているということである。人的能力開発投資を行なうと、専門性の向上によって生産性が上昇するが、このカーブがすぐに頭打ちになることは容易に想像がつくだろう。一九六四年の東京オリンピックで、世界で最もスピードの速い人間は米国のヘイズであった。一〇〇m一〇秒である。三五年を経た現在、世界記録は九・八秒である。この記録は間違いなく偉大なのだろう。しかし、もしこれが人間ではなく機械であったとすれば、記録への挑戦は明らかに失敗である。三五年で一〇〇分の二しか速度が上かっていないのだから。事実、日本の生産現場の生産性の向上の歴史を振り返るならば、人的な能力の向上の貢献もさることながら、決定的に重要なのは、自動化投資である。そこにおいては、人の能力を高めるというよりむしろ、生産工程に対する人間の関与を極力減らすことで生産性の向上が実現されている。すなわち、設備投資が実現できなければ、生産性の向上はありえないのである。